【からたちスタッフが綴る】



 
大澤基夫
からたちスタッフ。水俣生まれ水俣育ち。
みかん栽培、みかん販売、SUPインストラクター、チリメン漁など、
忙しくも楽しい水俣の日々を暮らしを過ごしている。


自分達は獲ったチリメン達は 
最後の最後まで網の中で必死に逃げようとしている 
その命を頂き 自分は生きている

 
からたちの仕事と並行して杉本水産のチリメン漁の手伝いをしている。
今年は5月1日からチリメン漁が始まり、休漁日と時化(しけ)の時以外は、
毎朝船に乗ってチリメン漁をした後にからたちに出勤している。

最初の2週間ぐらいは体が慣れずきつかったが、最近ようやく慣れてきた。
例年ではチリメン漁をやる組は水俣で4,5軒いるのだが、今年漁をしているのは自分達だけだ。

他の組がチリメン漁をやらない理由は3つある。 

1つ目は単純にチリメンが少ないといこと。
年々、漁場でもある不知火海で獲れるチリメンは少なくなってきている。

2つ目はクラゲの大量発生。クラゲが入ると網が重くなり、
船で引っ張れなくなくなったり、クラゲの重さで網を上げれずに、最悪は網が破けてしまう。
ただ親方達はそうならないように。網に複雑な仕掛けを施し、
チリメンは網にたまり、クラゲだけが網から抜けるようにしている。

3つめは獲れたチリメンを引き取る市場の値段が異常に安いらしい。
おそらくコロナの影響で飲食業のお店が経営不振になり、
その影響で漁師が獲った魚も売れず、値崩れを起こしていると思う。
チリメンが少ないうえに、価格も下げられたら、チリメン漁はできなくなってしまう。
そういった事例は他の農家さんでもよく話しをきく。
着実に第一次産業にもコロナの影響が目に見えてきた。

この三重苦の中でも杉本水産がやってきているのは、シンプルだが簡単に諦めないこと。
そして自分が獲っているチリメンは全て自分達で加工、販売をするので、市場の影響は受けないこと。
(からたちで販売しているチリメン・イリコ類は全て杉本水産)
チリメン漁の親方達の父・母である杉本雄さん、栄子さんが残した加工場、加工技術、人脈、
販路などはかけがえのない財産になっている。

自分が初めてチリメン漁の手伝いで船に乗ったのは大学卒業し水俣に帰ってきてすぐの時。
船酔いしながらも、雄さん、栄子さんにシラス漁のイロハを教わった。
ただあの時は口に教わったというより、見て学んだという感じ。
その頃、一日海に出っ放しで、夕方不漁で港に帰って来た時に、港で待つ栄子さんが(不漁のことは一切ふれず)
「ケガなく無事にみんなと船が帰ってきてくれた。それだけでよかったい。恵比寿さん有難うございました」
といつも笑顔で声をかけてくれていた。今でもあの笑顔は忘れられない。

自分達は獲ったチリメン達は、最後の最後まで網の中で必死に逃げようとしている。
その命を頂き、自分は生きているのだから、全ての命に対しても粗末にしてはいけない。

もっとこれからも厳しい状況が続くと思うが、毎日変化する海の状況に柔軟に対応し、
海や山に生きる生き物たちに敬意を持ちながら、生きていこうと漁をしていて改めて思うようになった。

(文・大澤基夫)



からたち
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